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西湖W邸 設計趣旨

敷地は富士五湖の一つである西湖の民宿村の一角にある
この村は三十数年前、伊勢湾台風による未曾有の被害を受けた村民に対し、安全を第一に考えて県が樹海を切り拓いて造った造成地である。五分も歩けば湖に出る、新緑、紅葉、四季が十分に楽しめる山々がある。

施主は西湖で生まれ育った後に上京し一家を構える。東京在住四十数年ながら根っからの山梨県人、質実剛健、働き者、還暦も過ぎまだまだ現役であるものゝそろそろ人生のたそがれ時、少し贅沢をして故郷に家を建てる。自宅から一時間半、東京の鉄筋コンクリートの家からまるで別の空間へ。風が通り土の匂いのする場所で大勢の友人、家族と共に集いたいという要望で始まった計画である。

一区画160~180坪、住宅を建てるには十分な広さであるが隣接した住宅地である。配置計画は周囲の状況を考慮し建物で敷地を囲み隣家が視界入ることなく山の稜線が望め尚且つプライバシーを確保できるコートハウスとした。
人を招く事を考慮し中庭を中心にプライベート棟、パブリック棟、厨房・倉庫棟を明確にゾーン分けした。来訪者は門をくぐり中庭の美濃石の路により玄関へ導かれる、その様子をどのゾーンからも見られる様にし、どの部屋に居ても来訪者にすぐに対応できるように計画した。

また、各ゾーンどうしが中庭を介して連続するという距離感は来訪者に居心地のよさを提供できるであろう。

平面計画はパブリックルームを中心に、西にプライベート棟を、東に厨房・倉庫棟を配置した。これは厨房の勝手口を東の前面道路に近い位置に設けたかった事と、唯一2階建てのプライベート棟による日影の影響と道路から見た威圧感を感じさせたくなかったからである。
20畳のパブリックルームは大人数に対応できるよう座して集う空間にし、長さ3.8メートルの座卓を置いた。北面に設置した長さ3.5メートルのベンチは、立座の億劫な方が腰を掛けられるよう配慮したものである。南面の幅4間の建具を全開にし16畳のデッキと連続した大空間は圧巻である。

厨房は大人数の料理を作るのに対応できる広さ、そして厨房用の食洗機等最新の設備と機能的であることを重視した。パン・ケーキ作りのために置いた大理石の調理台兼テーブルによりダイニングルームとしての機能も兼ね備えている。
厨房の隣には家事室(洗濯機置場)兼倉庫を配置し家事導線をまとめた。尚この家事室からデッキを通り外の物干場へ行けるようになっている。

水廻りはパブリックルームとプライベートゾーンで共有できる位置に設け浴室はこの敷地で唯一林に隣接している北西の角に設置した。

今回の計画は人好きの施主と訪れた人たちが自然を楽しみ人と交わる、そんな心地よい空間を造る事を念頭に置いて設計した。四季を通じ庭の木々の間から人々の笑いさんざめく声が聞こえてくる事を切に願っている。

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